「世に送り出す以上は、自分自身が100%納得できるモノを作りたかった」

 2001年、夏。「毛の付いたクローワームを作りたい」という清水盛三の一言から、バイズクローの開発は始まりました。盛三はバスフィッシングを20年以上も愛し続け、今でも1年のほとんどをトーナメントやプライベートの釣行に費やす、いわばアングラーの代表。一方、ベイトブレスはこれまでモノ作りの経験を着実に積み重ねてきました。両者が力を合わせることで、すばらしいソフトベイトができるはず。そう信じてプロジェクトをスタートさせたのです。

「あれはU.S.オープンに参戦していて、アメリカ同時多発テロ事件の影響でネバダ州の片田舎にあるモーテルで足止めを食らっている時でしたね。そこで谷野さん(ベイトブレス代表)と世間話をしているうちに、何か作ってみようという流れになって。そこで提案したのが獣毛をセットしたクローベイト。今まで色々なメーカーのホッグ系ワームを使ってきて、それなりに気に入っているものはあったんやけど… 本物のザリガニ特有の生命感とか水中で起こす波動を完璧に再現していると思えるような製品はなかった。」

「じゃあ、まずはザリガニの生態を熟知していないとダメだろうということで、一晩中ディスカッションしたんです。最後はお互いにエキサイトして『俺がザリガニ博士や!』と言い合いになってましたね(笑)。アイディアの原点は毛付きのポーク。樹脂とは違う、天然素材だけが持つポテンシャルに可能性を感じていた。硬めの獣毛がもつ張りと質感は、バスがザリガニの触角とか足を咥えたときの食感に近いんやと思います。もちろんマテリアルとシルエットについても徹底的に議論しましたね」

 バスの側線を刺激する波動という要素が極めて重要であるという点に関しては、両者の意見が当初から一致していました。ザリガニが水中で動く際に生じる波動は、胴体が生み出す大きな波動とツメなどが起こす中間波、そして触角や足が起こす鋭い小さな波動に大別できます。これらの要素のなかで、小さな波動は樹脂だけでは再現できていませんでした。そう、バイズクローの毛は単なる飾りではないのです。

 マテリアルの風合いは、盛三がもっとも注目していた要素のひとつです。開発時のリクエストは、脱皮直後のザリガニのような手に取ったときのズッシリとした質量感と、モチモチとした適度な弾力性。しかし、具現化することは決して容易ではありませんでした。塩を大量に入れながらも、硬くなりすぎない微妙なバランス。相反する要素を盛り込むためには、従来の一般的な成型機では不可能と判断し、ベイトブレスでは1年半以上の歳月をマテリアルの研究と専用成型機の製作に費やしました。

盛三のアイディアをもとにベイトブレス代表・谷野公一が描いた最初期のスケッチ。重要なパーツであるツメのシェイプは、この時点でほぼ決定していました。
 「味とかニオイは当然として、バスが好む食感っていうのも絶対にあると思う。それと、アクションさせたときに発生する各パーツの波動も考慮したうえで風合いを決める必要があった。塩の含有量が数%違うだけで、まったく質感が変わってしまいますから。具体的なデザインが決まりつつある段階でも何度か成分の配合は調整してもらいましたね。それと、一番大切なのは、結局トータルバランスやと思ってます。マテリアルとシェイプ、カラー。そのどれもがパーフェクトに噛み合っていないとアカン。」

 「最初に作ったプロトはロボットみたいな形で、自分のイメージとは全然違っていました。スタッフにCADで設計してもらいながら『ここをもう少し膨らませて』とか『そこは少し削って』と注文しながら一日中画面と睨めっこしてましたね。ツメのデザインに関しては、谷野さんが描いたスケッチがドンピシャで。あ、それでもツメだけで5、6個ほど作り直してもらったんや(笑)。」

 「色々と大変でしたけど、時間と手間を惜しまずに納得できるモノを作りたいっていう気持ちは両者とも一貫していましたよ。バイズクローに関しては、もう文句の付けようのない、パーフェクトなアイテムやね。世に送り出す以上は、まず自分自身が100%納得できるモノを作りたかったし、ベイトブレスも中途半端な仕事を嫌うメーカー。意見を出し合ってお互いが全力でぶつかりあったことが、理想とするソフトベイトが完成した最大の理由やね」

 幾多の難題を乗り越えて完成したバイズクロー。それは、盛三の経験と才能をベイトブレスが余すところなく形にした結晶です。メディアでの盛三を見る限りでは、大胆で豪快なイメージが強く残りますが、実は繊細な一面や完全主義者としての顔を持ち合わせているアングラー。
 ベイトブレスは、今後も盛三のルアー作りに対する意欲と情熱をしっかりと受け止め、それを形にすることが使命であると考えています。

優れたルアーか否かの判断について「最終的な答えは魚に聞くのが一番」と語る盛三は、
バスの視点を考慮したモノ作りができる数少ないアングラーのひとり。
今シーズンは、B.A.S.S.バスマスター・エリートシリーズの優勝が目標。
全米2大ツアーでの貴重な経験は、バイズクローへ確実にフィードバックされています。